「ココロノオト」有安杏果1stフルアルバム全十四曲紹介

※2018年1月追記
当記事の内容は全て2017年10月15日当時の情報です。現在有安杏果さんはももいろクローバーZを卒業していますが、アルバムは発売中です。聴きましょう。




宇宙があり






地球があり






ももいろクローバーZがあり






有安杏果があり






ココロノオトがある






M1 心の旋律

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

有安杏果(ありやすももか)さんはアイドルグループ「ももいろクローバーZ」のメンバーで、緑色担当。
グループの一員でありながら、このたびソロアルバムを携えてメジャーデビューを果たした。

なぜか????

それがこの一曲目「心の旋律」を聴けば分かる。

有安杏果とは誰なのか、なぜ歌うのか、なにが彼女を突き動かすのか。


このアルバムは彼女が楽曲を生み出した順に編まれている。
「心の旋律」は彼女が中学生の頃から書き溜めていたノートを元に初めて書いた歌詞だ。

「心の旋律」という曲名は、「ココロノセンリツ」として彼女のソロライブやパンフレットの題名にも採用されている。
初のソロライブ「ココロノセンリツ~feel a heartbeat~ Vol.0」を開催した横浜アリーナにて限定販売されたミニアルバムのタイトルも「ココロノセンリツ♪ feel a heartbeat」となっている。

また、彼女が4年間通った日本大学芸術学部写真学科での卒業制作も「心の旋律」というタイトルだった。
この曲を写真で表現した展示(上の画像参照)は高い評価を受け、写真学科の奨励賞を受賞している。

「心の旋律」はそれだけ有安杏果の核となっており、この曲なしには何も始まらなかったと言える。

そんな大切な歌詞にメロディーをつけたのは、長らくももいろクローバーZバンドマスターを務めていたピアニスト・武部聡志
ももクロが生演奏でカバー曲を披露する番組では、杏果の歌と武部氏のピアノが名コンビとして愛されていた。
杏果が描いた「心の旋律」の世界を100%音に乗せられる作曲家は彼しかいなかった。
なお武部氏は杏果の初ライブのバンドマスターを務め、「心の旋律」を美しく奏で上げてみせた。

色を変えゆく空の様相、その下で想いを貫く少女の心が優しく、力強く胸に迫る。
内省的な歌詞の中には共感できるフレーズも多く、彼女の人間味を伺わせてくれる。

スローで心地の良い曲調だけれど鋭さも持ち合わせ、高く伸びゆく有安杏果の歌唱がこちらの心をも貫いてくる。

有安杏果を知りたいならまずこの歌を聴けばいい。
「心の旋律」は有安杏果のファーストアルバムの一曲目に相応しすぎるナンバーだ。


M2 Catch up

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

杏果が初めて作曲を試みた記念すべき一曲がこの「Catch up」。
一曲目から一変し、とてもキャッチ―でキュートなナンバーだ。

遡ること4年前、杏果がこっそり入学した日大芸術学部にて、音楽学科の人との出会いがあったそうだ。
同級生が作曲を学んでいることに衝撃と刺激を受けた杏果は、その友人に色々聞いてみたらしい。
話の流れの中で一緒に一曲作ってみようということになり、この曲の原型が生まれた。

その出来事がなければ杏果は作曲などしなかったかもしれない。
なんというか、そういう運命を引き寄せてしまう人なのだと思う。

詞を付ける機会もないまま眠っていたそのメロディーを杏果が掘り起こしたのは、ソロライブ開催が決まった時。
詞を書き下ろし、曲を整え、杏果がaikoさんの曲を通して知ったOSTER projectさんに編曲と歌詞の整理を依頼し、完成した。

この曲は一度聴けば大体覚えられるほどキャッチ―だ。
きっと誰だってワクワクして踊りだしたくなるメロディー。まさに神曲
編曲を手掛けたOSTER projectさんといえばVOCALOIDを用いた可愛らしい楽曲で脚光を浴びた方で、この「Catch up」にもOSTERさんらしいキラキラの世界が広がっている。

そして歌詞が凄い。
一聴すると恋愛の歌詞だ。杏果が書いた中で唯一そう聴こえる貴重な歌詞だ。
本人も、周りの大学生にリサーチしたりドラマを見たり妄想を膨らませたりしながら恋愛の可愛い歌詞を書いてみたと公言している。
しかし一方でこうも言っている。「私とファンのみなさんのことを書いている」と。

そう、この歌詞はダブルミーニングになっている。
好きな人を想う可愛い女の子の物語、でありながら、日ごろファンに寄り添おうとしている有安杏果の姿、でもある。

有安杏果というアイドルがどのように愛されているのか、これを聴けば察せられると思う。
そしてもれなく有安杏果に恋をする。


M3 ハムスター

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

こちらは杏果が初めて一人で作詞作曲を手掛けた歌だ。

来る日も来る日も鼻歌を録り、少しずつ歌の形にしていったそう。
試行錯誤の甲斐あって、全編物凄くキャッチ―なメロディーになっている。
さらに編曲のJin Nakamuraさんやプロデュースを手掛けた多保孝一さんの手により、音楽ファンをうならせるような至極のサウンドに仕上がっている。

この曲はサビからスタートし、そのサビの出だしが「街頭の灯りが明るい都会の空」という歌詞なのだが、「あかりがあかるい」ってどうなんだ、と最初は正直引っかかった。
歌詞の技法のことは分からないけれどこれは微妙な言葉選びではないかと素人ながらに思ってしまったのだ。

しかし!「街頭の灯りが~明るい都会の空~」というフレーズは妙に強く頭に残り、ついつい口ずさんでしまう。都会の夜空を見上げる度に思い出してしまう!
結局これはすごく上手いなと今では思う。してやられた。

全体的にハムスターの歌詞はとても素直で、有安杏果の思想が良く出ている。
そして多くの人に届く歌だと思う。

同じ日常を繰り返し、回し車のハムスターのように走り続け、自分の存在意義を見失い、真っ暗な帰り道を急ぐ。
でも・・・!という歌詞だ。

「でも」なんなのかは曲を聴けば分かる。

杏果が暗い夜道を歩きながら何を考えていたのか、ふっと見えてきて、有安杏果という人間が愛おしくなる一曲だ。


M4 ペダル

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

この曲も杏果が鼻歌で作曲し、自分で作詞した作品だ。
「ハムスター」に表れている杏果らしさが「ペダル」にも色濃く出ている。

歌詞からして、「ハムスター」が夜の歌だとしたら「ペダル」は朝の歌だ。
しかし曲調は「ハムスター」の方が明るく、「ペダル」は落ち着いている。

そんな風に曲を聴いていると、杏果はネガティブなのかポジティブなのかよく分からなくなると思う。
答えはおそらくどちらでもあり、どちらでもない。確かなのは、彼女が堅実な歩みを好んで実行してきた人であるということだ。

さてこの「ペダル」は、歩いたり自転車に乗ったりしながら、道、あるいは人生、あるいは芸能活動の道を進んでいく杏果の心情を描いた一曲だ。
暗いようでいて爽やかなメロディーは歌詞と完璧にマッチしている。
表参道を歩きながら、時折カフェに籠り、詞と曲を同時進行で作り上げたそうだ。
巨匠本間昭光さんに何度もリテイクを注文したという編曲も素敵で、この曲の世界を見事に表現している。

余談だが元々杏果は自転車に乗ることが出来ず、番組の企画で克服したという過去がある。そんな彼女が「ぺダル」という曲を作るに至ったのは面白い。

有安杏果のシンガーソングライターとしての確かな実力とクセがよく分かるナンバーだ。
真っ直ぐな言葉を通して描かれた彼女の哲学は、聴く者の心に沁み込んで穏やかな共感を生むだろう。


M5 feel a heartbeat

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

有安杏果初のソロライブの一曲目を飾った、スタートラインの曲だ。
ソロライブで発売したミニアルバムに先行し、この曲だけ独自のジャケット写真を携えて配信された。

杏果が初めて自作曲を披露したラジオ番組「有安杏果オールナイトニッポンR」でも一番最初に流され、多くのファンに衝撃を与えた。
ライブのタイトルにも「ココロノセンリツ 〜feel a heartbeat〜」として使われており、「心の旋律」と並んで杏果のキーとなっている作品だ。

「feel a heartbeat」は、杏果が人生初のソロライブの一曲目で歌うために、ステージから見える景色を想像しながら紡いだものだ。
そのようなはっきりとした目的で書かれたものだからか、込められている熱量がものすごい。

ソロライブに向けて苦難と期待に溢れる杏果の日々と、ライブ当日に横浜アリーナのステージから見えるであろう景色が鮮やかに描き出されているのだが、そこには「あなた」がいる。

私は初めてこの曲を聴いた時、この人のファンをやってきた時間の全てが報われたように思えて感激した。
彼女は一人で夢を叶えたいのではなく、「あなたと」「一緒に」その時を迎えたいのだ。

もちろん、初のソロライブが終わった後もこの曲は色褪せることなく生き続けている。
練り込まれた歌詞は具体的なようでいて普遍的で、彼女がいつ歌っても映えるようになっている。
有安杏果とファンの絆を象徴し続けるナンバーだ。

また、「音の魔法」というワードが「Catch up」と共通で使われており、二曲の繋がりを考えるのも楽しい。

メロディーは多保孝一さんの指南のもと、杏果がギターで作曲したものだ。
杏果がギターを用いて作曲したのはアルバムの中でこの一曲だけで、本人はかなり苦戦したと語っている。
しかしその甲斐あってこの曲は、誰の耳にも引っかかるようなキャッチーで完成度の高い作品になっている。
「ハムスター」の編曲も手がけるJin Nakamuraさんがこちらでも神がかったアレンジをされている。

ラストのサビ前のDメロでは、ファンの涙腺をぶっ壊すようなキラーフレーズの後に、「Wow wow Yeah Yeah !!(Wow wow Yeah Yeah!!)」という掛け合いが配置されている。
ライブでファンと掛け合いたいがために作られた部分だ。
実際にこの掛け合いは毎回会場のボルテージを振り切らせる大切なパートになっている。

有安杏果にとって夢とはなにか、音楽とはなにか、ライブとはなにか、ファンとはなにか。
突き抜ける空のように澄み切ったこの歌が教えてくれる。

M6 Another story


完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

打って変わって、ロック寄りの激しさを放つ曲。
作詞は杏果、作編曲はアニソンの名曲を数多く手がける宮崎誠さんだ。

この歌詞は長期間かけて練り上げたのではなく、衝動的に一気に書き上げたものだそう。
さらに、これは「今」の葛藤や「今」の想いを表現しているからと、温存せずにすぐ作品化したのだという。

一言で言えば「心の闇」。
少し刺々しい言葉選びは他の作品には見られないものだが、ネガティブだけで終わらずポジティブに持っていく作風は共通している。

誰にでも、「もうダメだウワーーーーーッ」っとなってしまう時はある。
そんな時、杏果ならどうするか。
明るいながらも激しくてかっこいい曲に乗り、彼女のメッセージが雪崩れ込んでくる。

ラストサビ前のDメロは情景描写から心情描写に移行するつくりになっているのだが、そこがあまりにも秀逸な歌詞で、かつ、あまりにも秀逸なメロディーであるため、私はいつも身構えて聴いてしまう。
勿論曲の流れの中で輝く部分なのだが、ここだけでも聴いてみて欲しくなる。それだけ素晴らしいパートだ。

有安杏果という人は、自分に厳しく、芯からの強さを持ち、葛藤をなんとか噛み砕いて進んでいける人なのだなと、この歌を聴いたら分かるだろう。

その前向きな姿勢に気圧されてしまう場合もあるだろうが、もっとしっとりと寄り添ってくれる歌もアルバム後半に登場するため、この歌はこの歌として受け止めればいいのだと思う。

有安杏果の心の叫びが込められたこのナンバー。
聴いてみれば、「Another story」というタイトルのセンスに驚かされることだろう。


M7 Drive Drive

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

ここまでは杏果が初のソロライブに向けて作詞または作詞作曲をした楽曲が時系列順に並んでいたのだが、ここからは杏果が作詞も作曲もしていない提供曲が続く。

他のアーティストとのコラボレーションは杏果の音楽世界の広がりを生み出し、ライブやアルバムの幅を押し広げている。

まずはこの「Drive Drive」。
杏果が好きな[Alexandros]の川上洋平さんに依頼して書いてもらった作品だ。
大物への依頼が通ったのは、ももクロおよび杏果を担当しているEVIL LINE RECORDS(キングレコード内のレーベル)の宮本純乃介プロデューサーの力だ。

[Alexandros]の魅力のひとつである、英語が入った曲を歌いたかったそうで、要所要所に英語詞の混ざった仕上がりになっている。これがかっこいい。
横山裕章さんのアレンジもかっこいい。

要約するのは難しいが、ものすごく簡単に言えば、壁を飛び越えてドライブする歌だ。
なにかこう、生きる情熱を掻き立てられる。

川上洋平さんの言葉の選び方がいちいちかっこいい。
杏果の少しやさぐれた歌い方が言葉の魅力をしっかりと引き出していて良い。
杏果の書いたものではないが、きちんと杏果の言葉として響くから好きだ。

「Drive Drive」はどこで聴いても広い空の下で聴いているような気分になる。
ライブではサビでタオルを回すのが恒例となっており、室内であっても物理的な風を感じることで本当に外で聴いているような気分になる。

ボーカリストとしての有安杏果の実力の幅を垣間見せる、スタイリッシュなナンバーだ。


M8 裸

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

こちらは杏果がシンガーソングライターの小谷美紗子さんに依頼し、実際に面会してから書いてもらった作品だ。

杏果のお母さんが小谷さんのファンで、杏果はお母さんの持っているCDを通して小谷さんの世界観を好きになったそうだ。
そこには自分と通づるものがあると杏果は感じていたようで、今回の依頼に至った。

杏果の歌いたいことを理解し、杏果が必要とする曲を察知した上で、杏果も知らないような杏果を引き出そうとした小谷さんの大勝利である。
歌のディレクションも小谷さん自身が担当され、新しい有安杏果がそこに生まれている。

アイドルが「裸」というタイトルの曲を出すというのは衝撃的なものだが、歌詞の内容もまさに「裸」の心を曝け出したもので、なかなか挑戦的だ。
けれどもバッチリハマっている。

この歌を語るのは難しい。
とても美しくて、脆くて、でも強くて。
本当の心を静かに語っているような、激しく叫んでいるような。
自分と、誰かと、社会との間で、戸惑いながら、嘆きながら、それでも、淡く願う。
杏果の声が音楽に乗り、ゆらゆらと揺らぐ心の声を伝えてくれる。

この先何十年、ずっと歌い続け、磨き続けてほしい作品だ。


M9 愛されたくて

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

杏果が大好きな風味堂渡和久さんにオーダーして作ってもらったJAZZYなナンバー。
そう、杏果は好きなアーティストさんに依頼しまくって美味しい思いをしているのだ。冗談です。

好きな女に愛されたいがゆえに嘘をついて自分を飾り立てる男の歌。
それを杏果が可愛らしく、ジャジーに、ところどころ少し舌ったらずに歌う。
合わないようだけれど、これが見事にマッチしている。奇跡の化学反応だ。

杏果の大人のレディとしての雰囲気と、秘められた少年性が混ざり合い、素晴らしいことになっている。
「Drive Drive」とも「裸」とも違う、また新たな魅力を感じられるボーカルだ。

後半の間奏には「ぱっぱどぅびどぅびどぅ・・・」というスキャットが入れられているのだが、その可愛さたるや・・・。
国を支配できるレベルの萌えがここにはある。

ライブでは持ち前のダンススキルを生かして華麗にくるくる舞ってくれる。
それはライブチケットやブルーレイを買わなければ見られないのだが・・・曲を聴くだけでもその姿が浮かんでくることだろう。

なんだか、バーでカクテルを片手に楽しみたくなるような、素敵な雰囲気の一曲だ。


M10 遠吠え

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

こちらも渡和久さん作詞作曲の提供曲。
「愛されたくて」は編曲も渡さんが手がけているが、こちらの編曲はももクロでもお世話になっている長谷川智樹さんで、雰囲気がかなり変わる。

「愛されたくて」のスイートなテイストから一変し、「遠吠え」は徹底的にビターだ。
渡さんの中では「愛されたくて」は赤、「遠吠え」は青のイメージがあるらしい。
それは冷たくて深い青だと思う。

「言葉」をテーマに繰り広げられる、なかなか重くて鋭い歌詞。
暗いところから突き抜けていくような激情は、杏果の性質とも通づるもので、ゆえに合う。

ジャジーな雰囲気は「愛されたくて」と共通しているのだが、こちらはジャズロックとでも言うのだろうか、とてもクールでかっこいい。
そして歌の難易度がものすごく高い。

このアルバムにおいて、「愛されたくて」までの9曲は2016年7月3日に行われたファーストライブの前に作られている。
この10曲目「遠吠え」も「愛されたくて」と同時期に作られてはいたのだがしばらく温存されており、初披露は今年2017年6月〜7月の東名阪ツアー、歌のレコーディングをしたのはそのツアーの後となっている。

経験を積み、ツアーでの試行錯誤を経たからこそ、この難しい曲を自分のものに出来ている。
単に歌唱力の上昇とだけは言えないくらい、歌に含まれる多々の要素のレベルが段違いになっており・・・いや。

めっちゃ上手い!!!!!

有安杏果の歌唱を味わえる珠玉のナンバー、必聴。


M11 小さな勇気

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

有安杏果作詞作曲の「小さな勇気」。
こちらは前曲「遠吠え」より先にレコーディングされ、先に披露されたのだが、曲の誕生自体は「遠吠え」より後であるためここに配置されている。

杏果は2016年7月3日に横浜アリーナでのファーストライブ「ココロノセンリツ〜feel a heartbeat〜 Vol.0」を終えた後、追加公演として「Vol.0.5」を2016年11月26日に大分県別府ビーコンプラザで開催した。

なぜ大分だったのかといえば、2016年4月に熊本・大分で発生した震災のことが彼女の心にあったからだ。

その特別なライブに際して、新たな曲を書き下ろそうとなった時、有安杏果は進化した。
今まではひたすら自分の想いなどを表現していたが、今度は、誰かのために曲を書きたい。誰かの背中を押したい。
そういう気持ちが芽生えたそうだ。

アルバム前半に並んでいた杏果の詞と見比べると分かるのだが、「あたし」「自分」という言葉が「小さな勇気」では一切使われず、「僕ら」になっている。

「小さな勇気」、それは被災地の人々だけでなく、悩み苦しむ全ての人に向けられた杏果の祈りだ。

夜が明け、小さな種がまばゆい光に向かって伸びていくような情景を、そのままメロディーにしてみせた杏果は、コンポーザーとしても一段上に進んでいる。
河野伸さんの編曲がまた素晴らしい。
冒頭のピアノ音が印象的なのだが、そこは杏果がキーボードで弾いてようやくニュアンスを伝えて足してもらった部分なのだそうだ。

ちなみに「小さな勇気」は別府でのライブ後に期間限定で配信され、利益は全額被災地に寄付された。
また今年とあるトークイベントにて2017年7月に発生した九州北部豪雨の被災者に向けたコメントを求められた際、杏果は咄嗟に「小さな勇気」をアカペラで歌唱した。
2017年10月13日には、彼女の念願であった東北での公演が実現し、仙台サンプラザホールの観客とこの歌を合唱した。

「小さな勇気」は杏果の転機となった重要な歌であり、距離や時間を超えて人の心に届く確かな力を持つ作品だ。


M12 TRAVEL FANTASISTA

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

こちらは2017年6月〜7月の東名阪ツアー「ココロノセンリツ〜feel a heartbeat〜 Vol.1」で披露され、ツアー後にレコーディングされた楽曲だ。
製作は「小さな勇気」より後だが、披露とレコーディングは「遠吠え」と同時期という、少し複雑な時系列があり、とにかくアルバムではここに配置されている。
まあそれはいいとして。

Official髭男dismさんも杏果の好きなバンドだ。
杏果は彼らの楽曲をラジオでかけるほど好きで、多分その熱意もあって曲提供が実現した。本当に良かった。

「TRAVEL FANTASISTA」は、このアルバム「ココロノオト」の中で最も万人受けしそうなキラーチューンだ。
キャッチーでポップで楽しいメロディーに乗せて紡がれる、無敵な「君と僕」の物語。
この歌を気に入らない人はあまりいないように思う。

舞台である「街」を「ライブ」に、「君と僕」を「自分と杏果」に置き換えて聴いたらなんだかもう・・・筆舌に尽くしがたいほど・・・たまらなくなってしまう。

私はファンだからそういう意味でこの歌を宝物のように感じるのだが、杏果以外の誰かを想像したり、抽象的な「2人」や特定の2人組に当てはめて聴いてみるのも良い。一部の層は悶え死ぬだろう。

音に乗りながら軽やかに歌う杏果の声は、この曲の世界を鮮やかな形にしてくれる。
サビの最後に配置されているカタカナのフレーズが3つあるのだが、その発音の仕方が素晴らしい。
杏果の歌心を楽しめる最高のナンバーだ。

ライブではサビで一緒に手を振るのが楽しい。
杏果のライブを盛り上げる切り札として、長く愛されていく一曲だろう。


M13 色えんぴつ

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

杏果が今年の東名阪ツアーのために書き下ろした一曲。
私はこのアルバムの楽曲は全て好きだけれど、あえて一番を選ぶのであれば「色えんぴつ」だ。

この歌はメロディーも歌詞も明らかに異質で、重々しい、暗い、深い闇のようなものを宿している。
ネガティブな思索のなかからポジティブな糸口を見つけるのはそれまでの杏果の作風と一致するのだが、ネガティブの度合いが違う。傷やトラウマの域だ。

杏果は1歳から芸能界に入り、幾多の辛苦を舐めてきた人だ。
子役として、頑張って用意してきたオーディションで落とされることが沢山あった。
キッズダンサーとしてのここぞという舞台で隅のステージに追いやられた苦い経験もあった。
事務所を変えて辿り着いたアイドルグループはすぐに解散してしまった。
電撃加入したももいろクローバーでは、握手会で直接文句を吐きかけられたこともあった。
ももクロでの立ち位置は端っこで、せっかくソロパートが多い曲でもMVに全然写っていなかったりと、なにかと不公平な扱いを受けてきた時代もあった。
そんなこんなで杏果の中には「自分は必要とされていないのではないか」という思いが常にあったようだ。

けれど、2016年7月3日、横浜アリーナに集まる大勢の観客を前にして、杏果の意識が変わった。
必要としてくれている人がいるんだ。
もしかしたら自分にも出来ることがあるのかもしれない。

そうして生まれたのがこの作品だ。
色えんぴつは大事な色からなくなっていく、というようなメモに基づいて書いたそうだ。

アルバム前半の「Another story」に関して「前向きな姿勢に気圧されてしまうかもしれない」と書いた。
この「色えんぴつ」はそれと対照的で、弱っている人の心にも優しく溶けていくような歌詞になっている。
私はこれを夜中にベッドの中で聴くのが一番好きだ。

「自分は必要とされていない」と思わない人間の方が、きっと少ない。
「色えんぴつ」は多くの人の心に作用するだろう。本格的に救われたり、少しだけ心が軽くなったり、効果は様々だろうけれど。
誰かのために歌詞を書こうと決めた杏果が「小さな勇気」の次に作ったこの歌は、確実に誰かが必要としている歌だ。

さて、凄いのは歌詞だけではない。
あのヒャダイン=前山田健一氏にも「かっこいい、どうやって作るのかわからない」と言わせるほどメロディーが凄い。

鼻歌で少しずつ作ったメロディーを組み合わせて完成したというこの曲は、暗いところをゆったり流れながらも転調を繰り返し、終盤にかけて怒涛の展開を繰り広げて収束する・・・と書いても何を言っているか分からない。

スローテンポだけれどキャッチーで、独特だけれどメロディアスで、分かりにくいようだけれどしっかりまとまっていて、暗めの曲だけれど繰り返し聴きたくなる。そんな不思議な曲だ。

歌詞と曲がリンクしてずっしりとした重みを生んでいるこの歌だが、Yaffleさんのアレンジによって淡く優しくマイルドに仕上がっており、聴きやすい。

杏果の、情感溢れながらも感情的すぎない歌い方も良い。
初めてライブで聴いた際の「色えんぴつ」はヒリヒリするほど激情的な歌唱で、私は号泣し、絶賛したのだが、アルバムのワンピースを担うCD音源としてのこちらの「色えんぴつ」もあたたかみがあって好きだ。

有安杏果の「色えんぴつ」はもっと評価されるべき、そしてもっともっと届くべき歌だと思う。


M14 ヒカリの声

完成度★★★★★
歌唱力★★★★★
メッセージ性★★★★★

アルバムのラストを飾るのは、爽やかで明るい「ヒカリの声」。
アルバムを通して魅せられてきた杏果の作詞・作曲・歌唱の集大成のような作品だ。

「feel a heartbeat」で描いていた横浜アリーナのステージに、杏果は実際に立った。その時浴びたスポットライトの眩しい光が忘れられず、この「ヒカリの声」を書くに至ったそうだ。

だから「feel a heartbeat」の続編やアンサーソングとして聴くことができる。
ワードを照らし合わせてみるとグッとくる。
さらに、誰かのための曲作りの先駆けとなった「小さな勇気」や、同時期に作られた「色えんぴつ」とも通づる部分がある。

ライブを作る過程の苦しみをトンネルに喩え、ステージの光が彼女を支えていることを示す歌詞だ。
「ヒカリ」は一方通行ではなく、しんどい目に遭いながらも日々を生きているファン達と杏果がお互いに照らし合っている。

私のようなファンの琴線に直接素手で触れるような歌であり、杏果を知らないで聴いてもきっと力をもらえる歌だ。

本人出演のMVが公開されており、一番多くの人の耳に触れるであろう歌なのだが、しっかりと多くの人を引きつけるメロディーに仕上がっているため文句なしだ。
鈴木 Daichi 秀行さんの清々しいアレンジもこの曲の魅力を引き立てている。

「ヒカリの声」にはクリエイターとしての杏果の実力とボーカリストとしての杏果の伝達力が十二分に表れている。
特にDメロの絶唱はその核となっている。私はこのDメロを一生忘れない。

このアルバム「ココロノオト」の曲順は、単純に、曲の生まれた順である。
けれども、杏果の歌手活動のルーツである「心の旋律」から始まり、トンネルを抜けて未来に繋がるような「ヒカリの声」で終わる構成はこれ以上にないほど見事だ。
「ヒカリの声」は勿論一曲でも楽しめるが、「ココロノオト」のエンディングテーマとして聴いてみるとまた色が変わって一層楽しい。

このアルバムに捨て曲などひとつもない。
ネガティブだけに支配された曲もなかった。
ひとつひとつの大切なトンネルをきちんと抜けて進んできた軌跡がこのアルバムだ。

今日は2017年10月15日。
杏果は11日に発売したこのアルバムの向こう側、仙台公演を13日に終え、今は20日の日本武道館に向かっている。



そして・・・



このレビューもトンネルを抜け






ココロノオト特設サイトがあり

http://www.evilline.com/momoclo/kokoro_no_oto/






ココロノオトがある





以上、有安杏果ソロアルバム「ココロノオト」の感想を交えたレビューというか紹介文でした。
乱文失礼致しました。

ココロノオトが気になった方は早くこのページを去り、ココロノオト特設サイトへ行ってください。

http://www.evilline.com/momoclo/kokoro_no_oto/

MVやライブ映像や全曲視聴できるトレーラーへのYoutubeリンクが纏められているほか、通販サイトへも飛べます。飛んでください。

まずはYoutubeだけでも。レンタルでもいいのです。飛んでください。CDショップでもいいのよ。

有安杏果さんの歌が一人でも多くの人の心に届くよう願っております。